忍者ブログ
江戸後期、明治・大正期の文献・資料から興味あるものを電子化する試み
[31] [30] [29] [28] [27] [26] [25] [24] [23] [22] [21]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

『况翁閑話』(14)-温厚と軽薄

 青年長尾秋水翁(長尾氏は元臥虎山樵と号し、彼の一時人口に喧伝せられたる松前城下作と題し「海城寒柝月生潮、波際連檣影動揺、従是二千三百里、北辰直下建銅標」という詩を作りし人なり)に逢うたる時、話次、余波象山先生の詩二三首を録して示したるに、翁一見曰く、皆詩にあらず、詩の真味は篤温厚柔にあり、此詩の如きは圭角露出一も詩の体を得ずとて席に抛(ナゲウ)ちたり、於此予と一塲の大議論を生じたることありしが、今より思えば翁の説蓋(ケダ)し是ならん、其後杜詩を読み、つくづく感じたるは、杜詩に「避人焚諫章」という句あり、なる程君を諌める文を作る原稿は、決して止め置きて後に遺すべきものにあらず、況や他人の目に触るべきものにあらず、之を焚き去るにも尚人を避けて、秘密にすべき也、然るに上表諫文を文集に掲ぐる等は、実に杜氏に慚(ハ)ずべきなり、然るに近世は世人の不行を議するに、直ちに其人には一言もせず一書をも与えずして、しかも誰に与うる書と題し、数千百言を連ねて新聞に揚ぐるもの其例一二に止まらず、其意果たして何(イズ)くにあるか、澆季(ギョウキ)の世風とも称すべきか歎ずべきなり。

 評曰、先生一見豪放なるが如きも、其実は緻密周到、談話に文章に苟(イヤシク)も他の短を露言にせしことなし、宜なるかな常に此心ある。

(注)長尾秋水: 1779(安永8年)-1863、江戸時代後期の漢詩人。 安永8年生まれ。越後国村上藩士の子。 水戸でまなぶ。 文政2年蝦夷地(えぞち)(北海道)松前にわたり、以後諸国をめぐって北方防備の急を説く。 晩年は村上で藩士の子弟に漢詩をおしえた。文久3年3月18日死去。 85歳。名は景翰(けいかん)。 字(あざな)は文卿。通称は直次郎、藤十郎。 別号に臥牛山樵、青樵老人など。 (講談社『日本人名大辞典』
 北海道大学北方資料データベースに『幕末の志士長尾秋水翁(1、2)』という略伝がある。 それによると、文政2年松前に渡り、攘夷の漢詩「海城寒柝」(松前遊記20余首中に含む)を作った越後村上出身の尊王家。 略伝は郷土雑誌「高士路」第16-27号より写すと。
(注)松前城下作: 以下、読下し文
 海城の寒柝(タク、拍子木)、月、潮(ウシオ)に生じ
 波際(ハサイ)の連檣(ショウ、帆柱)、影、動揺す
 此れより二千三百里
 北辰(北極星)の直下に銅標(境界を示す標識)を建てん
(注)圭角: 玉にあるかど。 転じて、性質や言動にかどがあって、円満でないさま。 『大辞林』
(注)杜詩: 杜甫の詩
(注)避人焚諫章: 「章」は「草」の誤り。 『晚出左掖(晩に左掖を出ず)』と題する杜甫の詩(下記)からの引用。 左掖とは、内裏の正門の左(東)の小門のこと。
晝刻傳呼淺、 昼時、伝呼浅く、(伝呼:先払い、先触れ、浅:少ない)
春旗簇仗齊。 春旗、簇仗に斉(ヒト)し。(簇:むらがる、仗:長柄など武器)
退朝花底散、 退朝して、花底に散じ、(退朝:朝廷から退出する、花底:花が咲いている下)
歸院柳邊迷。 帰院して、柳辺に迷す。(帰院:家に帰る)
樓雪融城濕、 楼雪融けて、城はうるおい、
宮雲去殿低。 宮雲去って、殿は低まる。
避人焚諫草、 人を避けて、諫草を焚き、 (諫草:天子をいさめる正す内容の文書)
騎馬欲雞棲。  馬をのって、雞棲を欲す。 (雞棲:ケイセイ、にわとりのねぐら、鶏棲)
 (読下し文を附けたが、読方に自信が無い。 御容赦。)
(注)上表諫文: 上表は、「君主に文章を奉ること、あるいはその文書」、諫文は、「天子をいさめ正す内容の文章」
(注)澆季: 人情が薄れ、道義が乱れた末の世のこと。

 

PR

コメント


コメントフォーム
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード
  Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字


トラックバック
この記事にトラックバックする:


忍者ブログ [PR]
カウンター
カレンダー
09 2018/10 11
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31
カテゴリー
フリーエリア
最新コメント
最新トラックバック
プロフィール
HN:
梶谷恭巨
年齢:
71
性別:
男性
誕生日:
1947/05/18
職業:
よろず相談家業
趣味:
読書
バーコード
ブログ内検索